家族が認知症になる前に知っておきたいこと

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人生100年時代にむけて、認知症に対する不安や心配が増えているように思います。

例えば、娘が母親の定期預金を解約に銀行に行くと、窓口で突然こう言われます。

「お母さまが認知症で意思能力がないのであれば、後見人をつけないと払い戻しが出来かねます」

もちろん、銀行の窓口の女性も使い込みを疑って言っているわけではありません。

後々のトラブルを考えて、このような対応になっているのだと思います。

それでは財産管理にあたって、家族が認知症になるとどういったことになるのでしょうか?

家族が認知症になった場合に心配されること

家族が認知症になった場合におこる状況として心配されることとして次のようなものがあります。

  • 財布や預金などの保管場所や暗証番号などを忘れる
  • 財産に関する猜疑心が強くなり、預金通帳などを常時持ち歩くことになる
  • 悪徳な訪問販売、オレオレ詐欺などの被害にあう
  • 家族が預金を解約しようとして断られる
  • 実家など不動産を処分しようと思っても、意思能力がないため契約ができない
  • 老人ホームに入居しようと思ったが入居一時金の振り込みができない
  • 老人ホームの入居契約が意思能力がないために行えない
  • 子どもに財産管理をしてもらっていたが、財産の使い込みをされる
  • 子どもが複数いる場合、財産管理をしている子どもが使い込んでいるんじゃないかと他の子どもが疑って兄弟が不和になる

認知症になった後でとる財産管理方法(法定後見制度)

家族が認知症になった場合にとることができる方法として成年後見制度、法定後見制度があります。最初の例で、銀行の窓口で、後見人をつけてください、と言われた場合にはこの法定後見の制度を利用することになります。

すでに判断能力が不十分となった場合にはご自分では手続きがとれないため、親族などが家庭裁判所に申し立てを行い、後見人が選任されることになります。

後見人がやってくれるのは、身上監護と財産管理といわれます。

身上監護とは、介護契約や施設入所の契約など本人の生活や療養看護に関すること、財産管理とは、ご本人の資産や負債などの財産や収支を把握して本人のために必要な支出を計画的に行いながら資産を維持管理することとなります。

申し立てから後見開始の審判までは1か月から3か月くらいかかるようです。

遺産分割でも奥様が認知症で手続きがとれない場合に、銀行や司法書士などから後見人をつけるようにいわれることがあります。相続税の申告期限は亡くなってから10か月以内ですので、なるべく早めに手続きが必要となったりもします。

判断能力がないとされ、成年被後見人となると税務上も特別障害者として税優遇が受けられるということもあります。

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認知症になる前から準備できる財産管理方法(任意後見制度)

将来認知症になることに備え、その準備としてできるのが任意後見制度となります。

判断能力がある間は自分で財産を管理士、いざ判断能力がなくなったら事前に指定していた後見人に管理をお願いできる制度です。

事前の手続きは大変ですが、認知症になったとしてもスムーズに財産管理が引き継げるという制度になります。

手続きとしてはまずは信頼できる後見人候補を見つけないといけません。親族でも可能ですが、弁護士などの専門家にも依頼できます。介護の手配などについては家族で、財産管理は弁護士というように範囲を決めて複数の後見人に依頼することもできます。

この後見人選びというのが一番むずかしいのかもしれません。

サポートしてもらう範囲(代理権の範囲)をあらかじめ決めて、その後見人となる人と公証役場で契約を結ぶことになります。

その後、実際に判断能力が低下したとなった場合には、親族や後見人候補が任意後見監督人選任を家庭裁判所に申し立て、任意後見監督人が選任されると後見がスタートすることになります。

判断能力が低下したことを確認するためには、家族であれば連絡をとりあうのでしょが、専門家を依頼する場合には定期的に様子を確認する「見守り契約」などをあわせてとることが多いようです。電話などで状況を確認して、様子がおかしい場合には財産管理に移るというような形をとることもあります。

認知症の準備として民事信託(家族信託)も活用できる

成年後見制度以外で高齢者の財産を管理する方法として民事信託(家族信託)も注目されています。これも最初は契約が伴いますから、判断能力がある間でしか準備することができない制度です。

後見人の代わりに「受託者」という財産の管理をしてくれる人が登場します。

信託では財産全部の管理を委託するのではなく、一定の財産の範囲を決めて受託者に財産を託して、管理運用をしてもらったり、定期的に払い戻したりする契約を結ぶことになります。

任意後見制度に似ていますが、任意後見制度はあくまでも財産の名義人は本人で、本人の代理人として後見人が契約行為を行ったり財産管理を行う仕組みですが、民事信託の場合には名義は受託者名義になって契約行為や財産管理を委託者であるご本人のために行うという点が異なります。

民事信託の場合でも最も重要になるのは財産を管理してくれる受託者を誰にするか、という点になります。

家族で適当な人材があれば、その人に頼むのが一番ですが、頼める人がいない場合には専門家に依頼する、というわけにはいきません。信託の場合には信託業法の縛りがあるため、業として行う場合には免許が必要となるのです。そのため専門家に信託を依頼する場合には商事信託といって、信託銀行や信託会社と契約を結ぶことになります。

ただし、アパートなどの不動産の管理は不動産屋さんに、帳簿の作成などは税理士に…など個別に依頼することはできるので、それほどの事務負担にはならないケースが多いので、同居していたり、近所に住んでいるのであれば大きな問題にならないと思います。